安曇野能楽鑑賞会で出会った“スマホライク”なおばあちゃん
去る8月24日、安曇野市豊科公民館ホールで「信州安曇野能楽鑑賞会」が開かれました。
今年で29回目。冒頭に実行委員長でもある市長が挨拶する、折り目正しい安曇野市の文化事業の一環です。
寡聞にして私たちはこれまで安曇野能を見聞きしたことがなかったのですが、ちょうど暇を持て余していたこともあって参加させてもらいました。
当日3500円のところ、前売券3000円。じつはこれ、能楽の公演としては出色の安さです。
最近、銀座に能楽堂を移した観世流の公演なんかですと、普通でも当日8500円、人間国宝が出演するような大舞台では1万数千円します。
今回の演目には、狂言の野村 萬(人間国宝)をはじめ、野村万蔵、小笠原 匡、片山九郎右衛門、宝生欣哉、清水道喜などなど、重要無形文化財指定クラスの方々が多数、出演すると書いてあります。
これはもう見に行くっきゃないということで、前売券を握りしめて出かけました。
開演の午後2時。客席は9割方埋まり、盛況です。後で地元紙で確認したら、入場者数はおよそ460人だったとありました。
演目は能、狂言、能の3題。
源氏物語の夕顔の霊が、花供養にやってきた僧侶の前に現れる「半蔀(はじとみ)」。
マヌケな太郎冠者(たろうかじゃ)が失態に継ぐ失態で主人と詐欺師を翻弄する、爆笑系狂言の「咲嘩(さっか)」。
牛若丸伝説を描いた「鞍馬天狗白頭(くらまてんぐはくとう)」。
トリの「鞍馬天狗~」には、市内の選ばれた幼児・小学生12人が舞台に立つというイベント性もあって、おじいちゃん、おばあちゃんの動員も十分といった印象でした。
休憩を挟んで3時間30分の舞台は、お腹いっぱい。演出、音響とも素晴らしく、大変満足しました。
ただ、本編とは別ながら個人的に興味をもったのは、たまたま開演前のロビーで隣り合わせになったおばあちゃんの一言。
優に80歳を超えている小柄なおばあちゃんが、私たちがスマホをいじっているのを見て、
「あのね、私もスマホなんだけど、字幕アプリってどうすれば使えるの?」
意外なことを尋ねてきたんです。見ればおばあちゃんの右手には、真新しいスマホが。
ええっ?何のことですか?‥と聞き返すと、何でも今回の公演中、指定のアプリを起動すると舞台上の台詞がリアルタイムに表示されるらしい、ということがわかりました。
そういえば公演チラシの裏面に、ホニャララ~アプリのダウンロードはこちら、とキャプション付きでQRコードが載っていた気がします。
「お使いのスマホでQR コードは読めますか?」
「それができないの。別のやり方はないかしらね?」
何だかわからないまま、とりあえず自分のスマホで試してみることにしました。
チラシのQRコードをカメラで読み取り、指定された汎用の字幕表示アプリ(じつは聴覚障害者とのコミュニケーションを、スマホを使って行うための無料アプリ)をダウンロード‥と、ここまではよかったのですが、肝心の字幕ファイルの在りかがわかりません。
う~んう~んと悪戦苦闘するうち、開演のアナウンスが流れてきました。
「どうもね、お手数かけてすみませんでしたね。お若い人たちにわからないんだから、私らには所詮無理だわね」
そう言って恐縮するおばあちゃんに、お役に立てずごめんなさいと頭を下げた私たち。
せっかくの良いサービスなのに、利用方法の説明が雑過ぎて使えないのは残念。主催者には今後の改善を期待したいところです。
それはともかく、能楽をスマホの字幕を見ながら楽しもうという安曇野のおばあちゃんの「好奇心」には感心しました。若いなあ。