古民家は小さな石の上に乗っている構造だけど、大丈夫なの?

我が家の「束(つか)」。21年前に
前オーナーが全面的に修繕していました
我が家の床下を覗くと、木材の足が一定間隔に垂直に伸びています。「束(つか)」と呼ばれるこの足が、家全体を持ち上げ、支えています。
束と地面の間には「束石(つかいし)」という名の平たい石(玉石)が、ひとつの足に1個ずつ置かれていて、束が直接、土に接しないように工夫されています。
「伝統的軸組(じくぐみ)工法」では、この玉石基礎が家屋のベースになっているんですね。そのシンプルさには見れば見るほど感動させられます。
現代の建築のように、コンクリートを流し込んだり鉄筋を打ち込んだりなんてことはしていません。“大きな家が小さな石の上にただ乗っかっているだけ”なのです。
古民家再生や古民家のリフォームを請け負う工務店の中には、ホームページやブログを通じて、この玉石基礎を槍玉に挙げているところが少なくありません。
「耐震性がきわめて低く危険です。可及的速やかにコンクリで固めなければいけません……」
たしかに、素人目にも地震が来たらダルマ落としみたいに束石がすっ飛んで、家がグチャリといっちゃいそうです。本当に玉石基礎は大丈夫なんでしょうか?
「耐震性は、どうなんだろう?」の項にも書きましたが、古民家は現代の建築基準に則って造られているわけではありません。現代建築が“住宅の骨組みを基礎に完全に固定して転倒を防止する”という思想に基づいて造られているのに対して、伝統建築は正反対の発想で組み上げられているのです。
それは、家屋の土台を基礎に固定せず自由な状態にしておき、玉石の上に頑強な木造骨組みで造られた住宅を乗せるほうが、地震の力を吸収できる……という考え方です。
今日で言うところの、免震工法とか制震工法に近い理屈です。激しい揺れに襲われると、束が束石からズレたり、曲がったりしながら地震のエネルギーを散らして、建物を守るという発想なのです。
事実、2000年に発生した鳥取県西部地震では、阪神淡路大震災に比べて家屋の倒壊が少なかったそうですが、その原因は「伝統工法の家屋が多かったからではないか」と京都大学防災研究所が調査報告にまとめています。
→林 康裕「鳥取県西部地震・芸予地震 -木造家屋被害調査-」
ただ、伝統建築の耐震面の優秀性が知られるようになったのはごく最近のこと。世の中の一戸建て住宅はほぼ100%、ガチガチに固めた基礎に家を固定して造られています。
じつはこれ、法律の縛りがあるからなんですね。
、1950(昭和25)年に改正された建築基準法では、
■土台は、基礎に緊結しなければならない。(施行令第42条2)
とされていて、以来、新築物件は基礎を土台に必ず固定しなければならなくなりました。
私たちは建築の専門家でも何でもないのでエラそうなことは言えませんが、風雪に耐えて150年以上も凛として建っている我が家を見るにつけ、玉石基礎には現代の法律を超えた先人たちの叡智が詰まっているんじゃないかな、と思うのです。
玉石基礎の持つ免震のメカニズムを、現代の戸建て住宅にも生かせないものでしょうか?

ある古民家でみかけた「束」。
束石から外れています。
直しておかないと大変です