白樺林の中の“忘れられた古民家”
大町市の北アルプス山麓を、かんじきを履いて散策した2月末。とある山奥で立派な古民家に遭遇しました。
白樺林を抜けて行った先に、ご覧のような巨大な古民家が半ば雪に埋もれて姿を現したのです。
案内してくれた地元のガイドさんいわく、
「廃屋になってずいぶん時間が経ってるから、大町の人にも知られていないんじゃないかな」
要は忘れられた存在ということでした。
しかし、この家、造作が少々変わっています。屋根が左3分の1ほどぶった切られて、新たに一段低く造り直されています。
しかも、低くなった屋根の脇に、正面に向かって屋根とは直角に、小さな屋根がもう一つ載っています。「越屋根(こしやね)」のようにも見えますが、単なる飾り屋根なのかもしれません。
漆喰壁はまずまずの状態ですが、窓が破れていたり、梁の一部が剥がれ落ちていたりと、かなり傷みがきているようです。
一体どんな人の住まいだったんだろう、と想像を逞しくしていたら、たまたま地元の人が通りかかってくれました。
そこで尋ねてわかったのは、この古民家、今から40年以上前に大阪のさる団体に周辺の土地とともに買い取られ、レジャーランドの本部建物として利用されていたというのです。
周りにバンガローやテニスコートも造られ、一時は関西方面からたくさんの客が集まってきたそうです。
しかし、バブル崩壊とともに潮が引くように人が寄りつかなくなり、やがてレジャーランドは閉鎖。内部をホールのように改装した古民家も、当時の姿のまま打ち棄てられてしまったのでした。
なるほど、そういえば海鼠壁(ナマコかべ)の代わりにタイルが貼られていたり、窓のひとつにはステンドグラスが嵌まっていたりします。意匠を凝らした“変わり屋根”もレジャーランド造成の一環で改築されたのかもしれません。
いずれにしても、こんな雪深い山奥で誰にも知られず朽ち果てるのを待っているとは、もったいない。改修は大変そうですが、何とか再生の道はないものかと思った次第です。