基本、イタリアレストランだが焼き鳥中心?の「ビストロ鬼平」が凄い
松本城からクルマで10分あまり。浅間温泉郷の外れにあたる一角に、噂のイタ飯屋「ビストロ鬼平」はありました。
何が“噂”なのかというと、
「基本、イタリアレストランだが焼き鳥中心のメニュー」
「隠れ家的な一軒家で、近くを通ってもなかなか見つからない」
「店の雰囲気が“鬼平的”で、取っつきにくい」
「でも、すごく美味だと地元で評判」
そんな話が何となく私たちの耳に届いたのです。
浅間温泉に行ったついでに寄ってみようと、カーナビを凝視しながら店を探しました。
たどり着いたのは、女鳥羽川(めとばがわ)に面した小体な一軒家。道に面してかなりくたびれた感じのイタリアの国旗が出ていたので、なんとか通り過ぎずにすみました。
店の扉を開けると、そこはいかにも地方の洋食屋さんといった風情。テーブルが3つ、カウンターの奥に厨房があり、マスクを付けた短髪のご主人(鬼平?)が黙々と調理中でした。
そもそも「基本、イタリアレストランだが焼き鳥中心」という点からして、ミステリアスじゃありませんか。
しかし、メニューを拝見して納得。こちらのお店のメイン料理は、あくまでパスタなのですが、そこに和風の「信州地鶏しゃも料理」と「オムレツ、オムライス」など若干の洋食がアドオンされているのです。
しゃも、すなわち「軍鶏」といえば、あのハードボイルド時代小説の金字塔『鬼平犯科帳』で、主人公・鬼平こと長谷川平蔵の好物として描かれる「軍鶏鍋(しゃもなべ)」が有名です。
また、オムレツ、オムライスといえば『鬼平犯科帳』の作者・池波正太郎が愛した東京の洋食の定番メニューです。
つまり、この店は鬼平犯科帳と池波正太郎を愛してやまないイタリア料理のシェフが開いた“味のテーマパーク”というわけなのでしょう。
よく見ると、壁際の本棚に池波正太郎の文庫本がぎっしり詰め込まれています(他に藤沢周平と宇江佐真理の時代小説もありました)。ご主人の好みが店の隅々まで行き渡っている感じです。
ただし、私たちはイタ飯を期待して入ったので、メニューに並んだ「信州地鶏しゃも料理」はパス。その代わり、「池波正太郎が愛した ねぎの煎り卵を オムレツに」という長い名前の和風オムレツ(980円)と、パスタ3種類「プッタネスカ(980円)」「塩づけ豚のペペロンチーノ(1050円)」「ゴルゴンゾーラのペンネ(1080円)」を注文しました。
パスタはハードボイルドに傾き過ぎることもなく、絶妙なアルデンテ。味付けがすばらしく、大変美味でした。
オムレツも、池波正太郎が愛したと銘打つだけあって、まさにプロの味。家庭ではけっして出せない複雑な味覚のレイヤーを堪能しました。
サラダ・デザート・ドリンクセット(420円)もお値打ちです。
好奇心で入ったレストランですが、期待をはるかに超えるクォリティの高さに大満足しました。接客態度が素っ気ないのも、鬼平だからと納得できるレベルです。
次回は、ぜひ“本丸”の「信州地鶏しゃも料理」に挑戦しようと思います。
【ビストロ鬼平】