「違い棚」の上の段だけに縁飾りがある理由
床の間は、元来、南向きか東向きに作るのが正しいのだそうです。
床の間がある部屋は客人をおもてなしする場所ですから、家の中でも日のよく当たるところでなければいけません。
そういえば、我が家にふたつある床の間も、それぞれ南と東に向いています。かつてこの二部屋が客間だったことがわかります。
ところで、床の間の隣には「床脇(とこわき)」という空間があります。
今はもっぱら装飾的な“余白”のような場所になっていますが、かつて武士が生きていた時代には、ここに鎧をしまったり、硯や筆を置いたりしたのでした。
その床脇に段違いに取り付けられている棚を「違い棚」といいます。
その昔、高い方の棚には筆、香炉、冠を、低い方には烏帽子(えぼし)、壺、印判、巻物、書物、そして硯箱などを置いたそうです。
なぜ、わざわざ筆と硯箱を上下別々の棚に分けて置いたのかは不明ですが、しきたりではそういうことになっていたのでしょう。
面白いのは、高い方の棚の中央側の縁に、筆がコロコロ転がって落ちないための“ストッパー”が付いていること。
改めて我が家の違い棚を眺めると、なるほど上の段の中央側が反り返っています。この装飾的なストッパーのことを「筆返し」というそうです。
以前から、上の段にだけストッパーがあって下段にないのが不思議でしたが、筆は高い方に置く…という暗黙の了解があったわけです。
こんなところにも、日本家屋のディープな伝統というか“お作法”が息づいているんですね。