ムダの極み「長持(ながもち)」の美学

我が家には「長持(ながもち)」がふたつあります。
…といっても、みなさんピンとこないんじゃないかと思います。私たちも、この家に引っ越してくるまで、そんなもの写真でしか見たことがありませんでした。というより、そもそも名前すら知りませんでした。
長持というのは、寝具や衣類を収納するための長方形の木箱のことです。
サイズは一般に、横幅八尺五寸(約174センチ)前後、奥行きと高さは二尺五寸(約75センチ)ぐらいで、我が家のものも大体その大きさです。
江戸時代の代表的な花嫁道具だったらしく、嫁入り行列には欠かせない存在でした。
婚礼の日には、左右の両側面にある金具に棹(さお)を通して、男衆が前後から担いで歩いたそうです。
我が家の長持も、遠い昔、そうやって花嫁さんとともにこの家に輿入れしてきたのでしょう。

この金具に棹(さお)を通して担いだそうです
ただ、明治以降、箪笥が普及して徐々に使われなくなったようです。
この家を購入した時、古箪笥の類はひとつも残っていませんでした。
ところが、長持だけがふたつ、がらんとした板の間に置き去りにされていたのです。たぶん箪笥と違って利用価値がなく、処分できずにうち捨てられてしまったのでしょう。
実際のところ上蓋(うわぶた)がはずれ、蝶番(ちょうつがい)などの金具が腐り落ちて、使用に耐える状態ではありませんでした。
試しに表面にこびりついた埃と泥を拭ってみると、意外にも漆塗りの美しい輝きが蘇ってきました。
おやおや?、と思ってさらに磨きをかけ、金具も修繕して蓋を開け閉めできるように直してみました。
写真が修復後の長持1号です。赤みがかった表面が、薄暗い部屋の中で何ともいえない色艶を放っています。

内部もきれいに磨いて、トイレットペーパーや乾電池、電球などの買い置きをしまっておく場所にしました。
ただ、いかにも図体がデカイ。デカ過ぎます。置き場に迷った末に、あえてリビングの一角に配置してみることにしました。
場所塞ぎではありますが、重量感があって部屋が引き締まりました。おかげで、がらんとだだっ広いリビングに落ち着きが生まれたような気がします。
一方、長持2号は2階に置いて、五月人形など季節物の収納用に使っています。こちらも新たな役割を得て、少し“張り”といいましょうか、風格のようなものが出てきた感じです。
スペースユーティリティという点からすると、長持はデカい割に物が入らず、今日の住宅事情にはまったく合いません。箪笥に負けるべくして負けてしまったのが、よ~くわかります。収納という尺度で評価するならば、まさに“過去の遺物”です。
しかし、ムダなスペースがふんだんにある古民家には、かえってこういう古道具がしっくりくるんですね。末長く大切に使おうと思っています。



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