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「庚申さま」を知っていますか?

 数日、家を留守にして帰宅したある晩のこと。集落のクルマが里のほうからぞろぞろ帰ってくる気配に驚いて、留守中、何かあったのかとご近所に電話しました。

「ああ、今日はコウジンサマだったのさ。さっき終わってめいめい家に帰ったところ」

「コウジンサマ? 何ですか、それ?」

 思わず聞き返すと、

「コウジンサマはね、農業の神様なのよ。今年も豊作でありますように、と祈ってお神酒を差し上げてね、みんなで宴会をしたのさ」

 どうやら農家に古くから伝わるしきたりらしい、ということがわかりました。

 数日後、コウジンサマの当番が回ってきたというお宅にお邪魔して、コウジンサマの何たるかを説明していただきました。

 まず、見せてもらったのが、この年代物の掛け軸?と「庚申仲間」と書かれた帳面です。

2012111801.jpg

2012111803.jpg

 帳面の表題を見て、コウジンサマが「庚申さま」だと判明しました。

 具体的に何をするのかというと、年に6回めぐってくる庚申の日に集落の人たちが集まって、この掛け軸にお神酒や料理をお供えして祈り、その後、宴席を設けるのだそうです。

 ただ年6回も同じようにすると大変なので、年2回はきちんと行ない、後の4回はさっと済ますという話でした。

 今は集落の集会所や近くの宴会場を借りるそうですが、10年ぐらい前までは、当番になった家に近隣から三々五々、集まってきて、夜を徹して行なったといいます。

「みんな枕持参で集まるのよ。そんでもって酒盛りして、眠くなったらゴロリと横になってひと休み。目が覚めたらまた飲む。いやあ、当番の家はそりゃ大変な負担だったもんだよ」

 枕持参で徹夜の宴会とは! いやはや、とんでもない風習が残っていたもんだと驚き呆れました。
 
 家に帰って調べてみたら、庚申さまとは中国の道教に密教や神道、修験道、呪術的な民間療法などが混じり合ってできた、古い古い信仰なのだそうです。

 庚申とは暦の「十干(じっかん)」と「十二支(じゅうにし)」の組み合わせによって、年に6回現れる日で、“冷酷・陰気”が満ちるらしいのです。

 この日、人間の頭と腹と足にいて人が悪事をしないように見張っている「三尸の虫(さんしのむし)」という虫が動き出し、人が眠っているすきに天上界に上って、天帝にその人の行状のすべてを逐一報告すると考えられていました。

 三尸の虫の報告次第では、寿命が縮んだり、死後に地獄や餓鬼、畜生の“三悪道”に堕ちたりする恐れがあります。

 そこで、庚申の日は虫が体内から抜け出さないよう徹夜すればいい、ということになり、村人が集まって朝まで飲み明かす「庚申講(こうじんこう)」の風習が生まれたのだそうです。

 庚申講では、道教と仏教がミックスして誕生した青面金剛(しょうめんこんごう)を祀ります。青面金剛は4本の手を持ち、邪鬼を踏んづけて立っています。多くの場合は三尸の虫の“告げ口”を封じるために、「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿を従えているのだそうです。

 そこで改めて地元に伝わる掛け軸を眺めると、なるほど! 立派な身なりをした4本腕の大男が邪鬼を踏んづけて屹立しているではありませんか!

 しかも、一番下には「見ざる、聞かざる、言わざる」が胡座をかいています。

2012111802.jpg

 紛れもなく、この大男は青面金剛です。数百年前から続くという庚申信仰が、ここ安曇野の山間の里で今も守られていたんですね。

 興味深いのは、「庚申仲間」と書かれた帳面です。昭和10年から現在まで、庚申講を開いた日と当番の家、集まった人々の名前が見事な筆致で記録されています。

 長い年月の間、絶えることのなかった民間信仰の歴史が今に残っている姿に、驚きと感動を覚えた次第です。


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おじゃまします

面白いお祭りですね
でも迎える家は本当大変そう・・・

行いを正す方向ではなく
報告させない方向で
皆で頑張る辺りに

しょーもない人間らしさを感じて
ちょっぴりほほえましくなってしまいます^^

Re: おじゃまします

> 行いを正す方向ではなく
> 報告させない方向で
> 皆で頑張る辺りに
>
> しょーもない人間らしさを感じて
> ちょっぴりほほえましくなってしまいます^^

うまいことをおっしゃいますね!
私もまさにその点が素敵だなぁ、と思った次第です。
プロフィール

あづみ

Author:あづみ


都会から安曇野の古民家に親子3人で移住しました。夏涼しく、冬は想像を絶する寒さですが、ハラを括って暮らせば何とかなるものです。

その後、縁あって畑付きの田舎家をゲット。現在は山中の古民家と里の家とを行き来する日々です。

安曇野に興味のある方、また古民家に暮らしたいと思っていらっしゃる方、よろしかったらお立ち寄りください。

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