自在鉤に付いている魚のこと

我が家の“お魚”
自在鉤には長さを調節するための「腕木(横木)」が付いています。火加減を見ながら腕木でカギの位置を上げ下げし、鍋の底を炎の舌が舐めるように調整します。
元来、実用品なので板っ切れや針金を使っていたようですが、次第に装飾性が出てきて魚型に彫ったものが多くなりました。
魚型以外では扇型もポピュラーで、我が家に元々、下がっていた自在鉤は扇型の腕木でした。
古くなった自在鉤を交換するにあたって「やっぱり魚型がいいねぇ」という話になり、魚型の腕木が付いた自在鉤の新品を探し、大工さんに吊ってもらいました。
「自在鉤もヤフオクで調達しました」の項でも書きましたが、新作の自在鉤の中には、この腕木の魚が鯛焼きにそっくりなのがあって、ちょっとなぁと買い控えていたのですが、私たちが購入した自在鉤はどなたが彫ったものか、魚心といいましょうか水心を心得たスタンダードな形でした。
腕木に魚型が好まれるようになった理由は「魚が水のものだから」、つまり囲炉裏の火が燃え過ぎて火事にならないためのおまじない、ブレーキの役割なのだと言われています。
いやそうではなくて、魚を囲炉裏に宿る火の神様への供物として捧げているのだ、という説もあるようです。
安曇野では、自在鉤の先端のカギを「カギツケサマ」と呼んで、正月15日の朝、カギツケサマの向いた方を「明(あ)きの方(かた)」と呼んだそうです。「明きの方」とは正月の神様がやってくる方角のことで、毎年、方位を占うのに自在鉤が利用されていたのでした。

自在鉤の先端のカギを「カギツケサマ」と呼ぶそうです
実際に自在鉤を使ってみるとわかるのですが、鍋を吊るしただけでも前後左右に揺れ動き、時にグワングワンと回転を始めます。そのたびに先端のカギの向きが変わるので、方位占いにはうってつけだったのでしょう。
また物をなくした時には、細い布か紙をカギツケサマに括りつけてから探す風習があったそうです。自在鉤は火の神様と正月の神様のヨリシロ(神様がよりつく媒体)であると共に、それ自体が神様だったのですね。驚きました。
(以上、佐藤健一郎・田村善次郎「藁の力―民具の心と形

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