そもそも囲炉裏って、何のためにある?

我が家の囲炉裏です
囲炉裏と聞いてパッと連想するのは、着物姿の家族が車座になって囲炉裏を囲み、そこで煮炊きをしているシーンです。いわば家庭内にある炉端焼きスペース。実際、昭和30年代ぐらいまでは、日本各地でそうやって大家族が囲炉裏を囲み、朝餉、夕餉を楽しんでいました。
でも、囲炉裏の役割はそれだけではありません。ざっと挙げると、
・暖房
・乾燥
・火種
・照明
・燻蒸
などの機能も果たしていたんですね。

焼き物をしています
乾燥とは、ずばり火のそばに濡れた着物や川魚等を干して乾かす使い方です。囲炉裏の上に水平に渡してある火棚(ひだな)に、縄を垂らしたり、ベンケイと呼ばれるワラで作ったクッション状のものを吊したりして、そこに魚や肉などを取り付けて乾かしました。保存食作りには欠かせなかったのです。
火種(ひだね)というのは、マッチが貴重だった時代、ローソクなどに火を移すために灰の中に残しておく熾火(おきび)のこと。灰を掻き分けてオレンジ色の火種を出し、紙片やローソクの芯に火を移して使いました。
また囲炉裏の火は昼なお暗い古民家をあかあかと照らす、夜間のメイン照明の役割を果たしていました。
現在、私たちの安曇野の家では囲炉裏の燃料に木炭を使っていますが、これでは大して明るくなりません。昔は安価に手に入る薪をボーボー燃やしたので、木炭よりは幾分、明るかったでしょうが、それでも対面に座っている人の顔が辛うじて見分けられる程度だったのではないかと思います。
そして燻蒸(くんじょう)。薪を燃やすと白い煙がもうもうと立ち上り、タールの成分が萱葺きや柱に沁み込んで防虫、防水の役割を果たします。古民家の天井や柱が漆黒なのは、そのせいなんですね。いわば囲炉裏を使って家全体を燻製にしていたわけです。
ただし、閉じた空間で煙を燻すと目をやられます。昔はビタミンなどの栄養も不足しがちで、この囲炉裏の煙のせいで眼病になったり、失明する人が少なくなかったようです。有名な恐山のイタコも、煙が元で目を悪くした人が多かったという話を聞いたことがあります。
でも、それもこれも今は昔。調理と食事の場は台所と食堂に取って代わられましたし、暖房はストーブに、照明は電灯に、乾燥は乾燥機に、それぞれ置き換わってしまいました。
今の時代に残る“囲炉裏の存在理由”はといえば、「燻蒸」と「家族のコミュニケーションの場」ということに尽きるんじゃないかと思います。
燻蒸は、萱葺き屋根の保護のために定期的に囲炉裏に火を熾して煙を立てたほうがいい、というメンテナンス上の配慮です。我が家でも週に一二度は囲炉裏を使い、半日~1日の間、火種を絶やさないようにしています。
しかし、現代における最大の役割といったら、やはり囲炉裏を囲んでの一家団欒じゃないかなと思うのです。
実際に使ってみて実感するのは、家族や友人、知人、仕事仲間など、その時どきに集まった顔ぶれで、煮物、焼き物など変幻自在に料理を作れるのが囲炉裏のありがたいところです。
なにより、オレンジ色の炭火を見ながら飲んだり、食べたりしていると、不思議と心が癒され、あっという間にストレスが解消します。これって何物にも代えがたい囲炉裏の底力だと思います。

眺めているだけで癒されます

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