「売らない、貸さない」が古民家をダメにする!?

2010年10月17日付の朝日新聞(部分)
福島県下郷町の大内宿を紹介する記事が朝日新聞に載っていました(2010年10月17日)。
江戸時代の初期に会津藩が整備し、参勤交代にも使った宿場町が往時の姿を留めていて、年間116万人もの観光客を呼び込んでいるそうです。
街道沿いの45軒のうち33軒は今も茅葺き姿。1981年に国から「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されて以来、9軒が屋根を“茅葺きに戻した”といいます。
住民たちは「(家屋を)売らない、貸さない、壊さない」という決まりに従って、景観を守り続けていると書いてありました。
私たちはまだ大内宿を訪れたことがありませんが、古民家(とその保存)にとってはまさに理想郷のような場所だと思います。
伝統を敬い、次の世代に伝えようという住民のみなさんの絶え間のない努力があればこそ、昔ながらの素朴で美しい佇まいが21世紀の今日に残ったのでしょう。まったく頭が下がる思いです。
ただ、大内宿のみなさんが遵守してきた掟=「売らない、貸さない、壊さない」は、古民家の保存と継承にとっては“もろ刃の剣”であることも知っておくべきです。
記事にもありましたが、大内宿では雨が少ない春に、住民が協力しあって茅葺き屋根を葺き替えるそうです。茅葺き屋根が33軒もあるから、共同作業が可能なのです。
世界遺産に指定された白川郷などもそうですが、国や自治体から「建物群保存地区」に指定されているエリアには複数の古民家が残っていて、まだ辛うじて村落のコミュニティーが生きています。ご先祖様から受け継いだ我が家を「売らない、貸さない、壊さない」ために、住民同士が助け合う環境がどうにかこうにか残っているのです。
しかし、私たちが暮らす集落のように、もともと山間にポツンポツンと家が建っている場所では例外なく過疎化が進み、村落のコミュニティーは崩壊寸前です。茅葺きの屋根を葺き替えてくれる仲間など、もはやどこを探したって見つかりゃしません。。
そんな限界集落で「売らない、貸さない、壊さない」の掟を守っていたら、どうなるでしょう? 古民家は時の流れゆくままに「壊れていく」のです。
実際、私たちは信州のあちこちで「売らない、貸さない」古民家が「壊れていく」姿を目の当たりにしてきました。
公の保護の手が及んでいる「建物群保存地区」はむしろ例外的存在です。全国規模で古民家の将来を考えるなら、
売るべし、貸すべし、生かすべし
を推進してほしいと思います。

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