安曇野に今年も咲いた<安曇野>
3年前、オープンガーデンでお邪魔したお宅の庭先に咲き乱れていた小さなピンクのバラ<安曇野>。楚々とした一重の佇まいに心惹かれ、小枝を10本ほどカットして頂いて帰りました。
挿し木して苗を育て庭に植えたところ、翌年の梅雨時に初めて花を付けました。当時の背丈はわずか20センチあまり。でも、たった1年でしっかり開花してくれたのには感激しました。
それから2年が経ち、10本の苗はそれぞれ1メートルほどの立派な株に成長しました。
花数も目に見えて増え、特にこの1年は株としてのボリューム感が急にアップしたように見えます。
耐寒性が強いという触れ込みの栽培種の中には、安曇野の冬に負けてあっけなく枯れてしまうものも少なくありません。
その点、<安曇野>は北アルプスの寒冷な気候に最適化していて、年々、確実に生長を続けています。
<安曇野>を作出したのは、ローズ・ブリーダーの小野寺 透さんです。1968年、<のぞみ>という小さな枝垂れバラで育種家デビューを飾りました。
<のぞみ>は海外でも広く愛好され、交配親としてもその後、多くのバラの誕生に使われました。
ちなみに<のぞみ>とは、太平洋戦争で幼くして亡くなった小野寺さんの姪のお名前。平和への願いを込めた入魂の作品だったのです。
それから15年後の1983年、恐らくはローズ・ブリーダーとして円熟期を迎えていた小野寺さんが世に送り出したのが<安曇野>。デビュー作<のぞみ>を彷彿とさせる和風のバラでした。
一季咲きのつるバラで、小ぶりな枝に明るいピンク色の花をたくさん付けます。
一輪の大きさは2.5センチほど。花弁の先は濃いピンクですが、花芯に向かって色が抜けていきます。そして中心付近の白い花びらをバックに、鮮やかな黄色の蕊(しべ)がちまちまとまとまっています。
<マリー・アントワネット>や<イングリッド・バーグマン>などの大輪で華麗な西洋バラに比べると、いかにも淡白で和風な印象です。
そしてごく控えめな香り。
争いを避け、和を貴ぶ日本人の心情に響く<安曇野>は、ローズ・ブリーダー小野寺さんの平和への想いを今なお伝えているようです。