安曇野名物といえば「
おやき」です。今では信州どこでも手に入るポピュラーな土産物ですが、もとをただせば安曇野以北の米のできない山間部で、小麦粉やそば粉を皮にして野沢菜やナスを包んで焼いたのが始まりだそうです。
私たちが住んでいる安曇野の東側の山里でも、昔からおやき作りが盛んでした。特に囲炉裏におやきを放り込んで蒸し焼きにする「
灰ころがし」が有名ですが、食品衛生法上の縛りがあり、囲炉裏端で焼いて食べさせてくれる店は少なくなっています。
先日、たまたま安曇野の東隣の筑北村(ちくほくむら)をクルマで走っていたら、国道沿いに「
灰焼きおやき」の看板を見つけました。

殴り書きのような手書きの看板の横に、大きな
藁馬(わらうま)がデンと立っています。なぜ、藁馬なのかはわかりませんが、たぶん客寄せなのでしょう。


ちょうどおやつ時で小腹が空いていたので、クルマを停めて店をのぞいてみることにしました。
信州月路(しんしゅうつきじ) ちょっと風流な店名です。ただ、それにしては看板がいささかチープな気がしないでもありません。
店自体も、看板に負けず劣らず冴えない感じのプレハブです。安食堂なのかな、と思ってガラス戸をガラガラと開けると、意外にも正面がすぐカウンターになっていて、食事のスペースはありません。テイクアウト専門なのです。

カウンターの横の壁に、手書きのメニューが張り出されていました。
本日のおやき ◎なす(味噌味)
◎野菜ミックス(キャベツ、しめじ、ニンジン、夕顔、ネギ=味噌味)
◎あんこは前日までに御予約願います。
1個250円 メニューの横には、さらに乱れた筆致でこんな但し書きが張ってあります。
信州月路では、重ソー、ベーキングパウダー等の食品添加物は使用しておりませんので、
安心してお召し上がりいただけます。 カウンターの前で二の足を踏んでいると、奥から割烹着に帽子・マスク姿のおじさんが出てきました。
「あのぉ、ここで食べられますか?」
「食べるところはないんだけどね、温め直してすぐ食べられるようにはしますよ」
ということで、試しになす1個、野菜ミックス2個を注文しました。オーブンで温めて、表面を少し焼き直すとのことで、クルマに戻って15分ほど待機していると、玄関の引き戸が開いて、原発の防護服のような完全防備のおじさんが手招きしています。
ふたたび店に入ると、皿の上に大玉のおやきが載っていました。表には「月路」の焼印が。

おじさんに頼んでふたつに切ってもらいました。断面を見ると、外側数ミリはカリカリで、その内側がスポンジ状にしっとりしています。真ん中にホカホカの具がぎっしりこぼれんばかりに詰まっています。

ガブリと一かじりして納得。小麦粉だけで練ってあるのでしっかり歯ごたえがあり、一方中身はトロトロに火が通っているんですね。
おじさんの話によると、練って作った団子状のおやきの外側を鉄板で軽く焼いた後、灰の中に埋めるのだそうです。
灰は300度ぐらいの高温になっているため、おやき内部で具がグツグツと煮え、全体が蒸し焼き状態になるのだそうです。
言われてみれば、なすも野菜ミックスもとろけんばかりの柔らかさ。特にキャベツ、しめじ、ニンジン、夕顔(かんぴょう)、ネギを刻んで味噌で味付けした野菜ミックスは、絶品でした。
なんでもこのお店、今年5月にオープンしたばかりだとか。道理で調理場がピッカピカ、調理器具のステンレスがまぶしいぐらいに輝いていたわけです。
メインの調理器具である灰を収めた炉は、レンガを整然と積んで組み立ててありました。とにかく衛生面には徹底的に気を配っているようです。保健所の指導を忠実に守ってお店を開いたのでしょう。
中央奥の下のほうに見えるのが、灰の入った炉 おじさんの応対も素朴で商売っ気はありませんが、味の良さでは先行するおやき屋を凌ぐ実力派でした。
安曇野の土産物店のおやきに物足りなくなったら、ぜひ少し足を延ばして「信州月路」の灰焼きおやきを賞味してみてください。無駄足にはならないはずです。
信州月路(しんしゅうつきじ)大きな地図で見る
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