明治時代の高機を修理しました
安曇野市内の旧家から、年季の入った古風な佇まいの高機(たかはた)を1台、頂きました。
織工房に搬入して明るいところで眺めていたら、おや? 織脚(おりあし)の内側に何か書いてあります。
スマホの光を当てると、古びた木の表面に墨字が浮かび上がりました。
明治四捨四年二月製造
大工 髙山徳五郎
どうやらこの機を作った人のサインのようです。
明治44(1911)年といえば、第一次世界大戦の前夜。国内では大逆事件の幸徳秋水が処刑された年です。
東京・吉原が大火に見舞われ、安曇野の北・小谷村では日本における20世紀最大級の土砂災害といわれる「稗田山崩れ(ひえだやまくずれ)」が発生しました。
そんな暗い時代に、大工・徳五郎さんが腕によりをかけて拵えたのでしょう。ていねいな仕事で、まったくガタつきがありません...と言いたいところでしたが、残念。織り上がった布を棒に巻いて、弛まないように固定しておくための歯車のストッパー(座止め=ざどめ)が、ポッキリ折れていました。
歯車に竹製のヘラを当てて1ノッチずつ動かす仕組みなんですが、力のかかるヘラの付け根が疲労を起こして割れてしまったようです。応急処置で巻いてあったビニールテープの内側で、竹がグニャグニャ動いています。
このヘラの支えがないと歯車が固定できず、経糸に横糸を通せません...つまり使い物にならないんですね。
そこで、ありあわせの材料を使って代替品を作ることにしました。
よく見るとこの座止め、そもそも歯車との仰角が開き過ぎています。もう少し角度をつけて斜めに当てたほうが、ストッパーとして確実に仕事をする気がしてきました。
工房にある別の高機を参考にしながら、歯車の反対側にご覧のような三角形の木っ端を固定して、斜面に沿うように竹のヘラを渡してみました。木ネジでしっかり止めます。
出来上がりがこちらです。布を巻く棒を回すと、カチカチカチ...小気味良い音とともに歯車が1ノッチずつ送れるようになりました。
早速、試し織りをするとじつにスムーズ。とても110年以上も昔に作られた高機とは思えない滑らかな動作です。
明治の大工・徳五郎さんに感謝、感謝。