安曇野ラウンドアバウトは田舎の誉(ほまれ)?
町中をちょっと外れるとすぐに田んぼと畑が広がり、北西側には北アルプスの山々が聳えています。
高い建物やエキセントリックな色彩の家を建てるのを禁じた景観条例があるせいでしょうか、運転席から見える景色は広々していて視認性が良く、運転中に余計なストレスを感じることがありません。
移住したての頃は、どこを走っても自動車教習所みたいだなという印象でした。
ところがある日、初めて行く場所をカーナビに設定して田園地帯を走っていたら、路肩に見慣れない標識が現れました。
ん?時計回りだって...?
考える間もなく、眼前に円形の中の島のようなものが見えてきました。その周りを舗装道路がぐるりと取り巻いているようです。
何なんだ、これは?
一瞬、軽いパニックに襲われてブレーキを踏み、最徐行して接近すると、中の島を時計回りに回ってきた軽トラが左ウインカーを出してこちらに曲がってきます。
なるほど、ロータリーになっているのか。
理屈はわかりましたが、しかしロータリーなんてものはほとんど走ったことがありません。どんなふうに進入すればいいのか。昔、教習所で教わった記憶もなく、お作法がわからないままウインカーを出して、ひたすら徐行し周回道に入りました。
中の島の真ん中に標識が立っています。
ラウンドアバウト
ラウンドアバウト?
聞いたことありません。というか咄嗟(とっさ)に連想したのはイギリスのプログレバンド、イエスの名曲のタイトルでしたが(古い!)、それがこのロータリーと何の関係があるんでしょうか。
とりあえずカーナビの指示する道に曲がって中の島を後にしましたが、予期せぬドライブ体験に思わず手に汗握ったのでした。
家に帰って調べてみたら、ラウンドアバウトとは日本語で環状交差点といい、一時停止や信号機が一切ないのが特徴なんだそうです。逆に一時停止位置や信号機がある場合がロータリーで、こちらの和名は円形交差点。何だか紛らわしいですが、たしかに今、通ってきた交差点には一時停止も信号もありませんでした。ゆえにラウンドアバウトだったんですね。
じつはこの交差点、安曇野と松本を結ぶ道路上に位置するためそれなりに往来があるんですが、もともと変形五叉路で通過にストレスがかかる場所でした。
地元住民から信号機の設置を求める声が上がったものの、ご覧のとおりの田舎道。コスパが悪過ぎて信号なんかとてもとても...という時に降って湧いたのがラウンドアバウトの設置案だったのだとか。
ラウンドアバウトは交差点周辺の土木工事だけで造成できる上に、完成後の維持管理も低コストで済みます。
信号機を使わないので電気が不要。しかも赤信号のたびにクルマが停止→発信を繰り返すことがないため燃料消費が減少し、排気ガス排出・近隣への騒音も少なくなります。SDGsの観点からも優れた仕組みというわけです。
また信号機がないので景観が守られ、右左折用の専用レーンもいりません。
そして何より交差点進入時にクルマが徐行するので事故が少なく安全--という点が最大のメリットなんだそうです。
ただし交通量が多い都会では渋滞につながるため、ラウンドアバウトは向いていません。だだっ広い土地を軽自動車がタラタラと走っているような田舎じゃなければ実現しないシステムなんですね。
ラウンドアバウトの普及が始まったのはわずか10年ほど前からで、地方や郡部を中心に日本全国にまだ60箇所ほどしか存在しません。
ちなみに、ここ安曇野市本村円は2015年4月15日に導入されました。
観光スポットでも何でもないですが、都会ではけっして味わえない珍体験をしてみたいという奇特な方は、試しに”走り抜け”てみてはいかがでしょうか?
